1. 生命工学の概念

(1) 生命工学の定義

生命工学(Biotechnology)とは、生物の機能を利用する技術乃至学問であります。
即ち技術的、 産業的工程に生物学的機構を応用して人間に有益なものを生産する技術乃至学問であります。

生物の機能とは、生物が有する遺伝、 生存、 成長、 自己制御、 物質代謝、 情報の認
識、処理などの機能をいいます。

生物工学は、 従来の発酵や植物育種を中心とする伝統生命工学(old biotechnology)と遺伝子操作を中心とする新生命工学(new biotechnology)とに区分されます。


(2) 生命工学の核心技術と技術の特性

現代の新生命工学は、生物の機能を利用するための手段として次のような核心技術(key technology)を利用します。

 遺伝子操作技術(遺伝工学)
 細胞融合技術(細胞工学)
 細胞大量培養技術(細胞培養工学)
 バイオリアクター技術(酵素工学)
これら生命工学の核心技術には、次のような特性があります。

 1) 生物体が有する遺伝情報を変形させる技術であります。 遺伝子操作技術と細胞融
 合技術がこれに属します。 応用的な側面から見れば育種乃至品種改良の範疇に属し
 ます。 最近の技術としては、特定部位の突然変異技術と蛋白質工学技術もこれに属
 します。

 2) 育種した高機能生物を大量に増殖させるか、その機能を最大限度に発揮させる工
 程技術 (process)であります。 細胞の大量培養技術とバイオリアクター技術がこれ
 に該当します。

従って、生命工学は育種技術と工程技術を良く組み合わせなければ完全な産業として成立することができません。

最近では、高等生物体の生殖機能を利用するための生物の人工複製技術が新生命工学の核心技術としての位置を占めつつあります。


2. 特許出願の際、留意すべき事項

(1) 学術分野のデータベース

例えば、 Genbankに登載して直ぐさま公開する場合には、新規性喪失と見做されることがあるので、 情報公開の時期を特許出願の後に遅らせるようにしなければなりません。

特に、 Genbankに序列を公開し、これを論文に発表する場合は、 新規性擬制の起算日が Genbank公開日となるので、この点に留意しなければなりません。また米国やヨーロッパの場合は、韓国とは新規性を擬制する制度が異なるので、これらの国に出願しようとする場合には、序列公開時期について特に留意しなければなりません。


(2)微生物の寄託

微生物の寄託
微生物関連発明の出願の際、 その微生物を特許庁長の定める寄託機関またはブダぺスト条約による国際機関に寄託し、 其の受託証を出願書に添付しなければなりません(特許法施行令第2条)。

 ※ 微生物寄託機関(国内)
 Korean Cell Line Research Foundation(KCLF)(韓国細胞株研究財団)
 Korean Culture Center of Microorganisms(KCCM)(韓国微生物保存センター)
 Korean Collection for Type Cultures(KCTC)(韓国生命工学研究所遺伝子銀行)

(3) 序列目録の提出
特許出願の際、序列目録と共にそれをコンピューターで判読可能な形態の電子ファイルを提出するようになっています。

  1) 序列目録作成の適用対象
  序列目録作成の適用対象になる塩基序列とは、塩基またはその変形体を塩基部分
  に有する10個以上の“ヌクレオチド”のみからなる側鎖のない直鎖状または環状
  のものを言います。 また、 アミノ酸序列とは、 自然に通常存在する蛋白質を構成
  している L-アミノ酸若しくはその変形体が4個以上結合した側鎖のない直鎖状ま
  たは環状のものを言います。

  2) 序列目録の作成方法
  序列目録は、WIPO標準ST.25を採択した特許庁告示第98―12号の「核酸塩基および
  アミノ酸序列を含む特許出願の序列目録に関する作成および提出要領」にしたが
  って特許庁が無料で配布するプログラム(KOPatentIn)で作成すれば結構でありま
  す。

これによって作成された序列目録は、国内特許出願は勿論国際特許出願の時の国際調査および予備審査機関、そして指定国および選択国でそれぞれ要求する序列目録作成の要件を充足しています。

3. 生命工学分野の特許の要件

(1) 生命工学分野の特許の対象

生命工学分野も他の産業分野と同様に産業上の利用可能性、新規性、進歩性の要件を備えなければ、特許を受けることができないのは当然でありますが、生命工学分野は、特に倫理的、法律的な問題が発生する素地があるので、その対象が制限されています。

生命工学分野では、特に産業上の利用可能性が重要な要件になることもあります。

 ※ 特許審査基準による保護の対象

区分

 対象

 特許可否

 備考

物質

 遺伝子(DNA)序列

 特許可能

 有用性が明らかになった
 場合のみ可能
 - 単なるゲノム序列だけで
   は不可(注1参照)

 蛋白質(アミノ酸
序列)

 特許可能

 微生物(virus,bacteriaなど)

 特許可能

 関連微生物寄託義務

 動物

 特許可能、
但し公序良俗に反
しないもの

 動物発明に関する
 審査基準

 植物

 無性的に反復生殖
のできる変種植物
のみ可能

 特許法第31条
 (植物特許発明)

 人間の身体部分

 特許不可

 人の尊厳性を害する発明
 は特許の対象から排除

方法

 手術、治療方法

 人は不可、
動物は可能

 人の治療診断の方法は医
 療行為に該当するので
 産業上利用可能性のない
 のと見做す
 (特許法第29条第1項)
 (注2参照)

 遺伝子治療法

 人は不可、
動物は可能

 診断方法

 人は不可、
動物は可能

 

(資料:特許庁発刊「生命工学の道案内」)

注 1)有用性が明らかになった場合だけ可能 ― 単なるゲノム序列のみでは不可。 この要件と関連して遺伝子断片(ESTs)に対する特許の許与と関連して国際的に賛反両論がありました。

 ※ ESTs (Expressed sequence tags) とは、全体構造と機能が明らかになってい
 ない遺伝子(gene)の一部分に該当する短い長さの断片(普通150―500base pairs程
 度のサイズ)と定義されます。 ESTsのような遺伝子断片の特許保護について最も
 核心となる問題は、有用性の判断基準であります。

注 2) 人の治療診断の方法は、医療行為に該当するので産業上の利用可能性がないものと見なします(特許法第29条第1項)。

従って、最近活発に研究されている遺伝子治療法(gene therapy)は、人を対象とする治療方法としては特許を受けることができません。但し、遺伝子の治療用ベクターのごとく物質として請求する場合には、特許の対象になることができます。


(2) 生命工学分野の特許の審査基準

特許出願の効率的な審査のために[生命工学分野の特許の審査基準]を制定し、1998年3月1日から適用していましたが、 これを2000年12月に改正して2001年1月1日から施行しております。

 ※ 改正された審査基準の主要内容

1) HGPの産物(DNA断片及びSNPなど)に対する特許性判断基準の定立

 1. 産業上の利用可能性
  イ.全長DNAを取得するためのprobeとしての用途は、有用性のないものと判断
  ロ.単に法医学的鑑定にのみ使用し得ることだけが記載されている場合には、
      有用性がないものと判断
  ハ.特定疾病との関係を究明して、特定疾病の診断に利用することのできること
      などが実験的に立証された場合にのみ有用性があるものとします。

 2.進歩性
 相同性検索結果だけを利用して特定蛋白質の遺伝子であることを究明した場合に
 は、進歩性がありません。

2) 大容量出願に対応するための出願の単一性判断基準の整備
 1. 判断基準を審査指針書と一致させました。
  イ. 出願の単一性は特別な技術的特徴の存在有無で判断
  ロ.特別な技術的特徴は先行技術と区別される改良部分

 2. 同一な起源は特別な技術的特徴として認めません。
 生命体のgenome分析の結果、 起源だけが同一であり技能が異なる複数個の遺伝子
 を一つの出願とする場合は単一性に違背

3) 最近の生命工学発明に関する判例及び事例を反映
 1. 遺伝子
 発明の詳細な説明に変異体についての例示がある場合には、当該遺伝子の機能と
 変異体の範囲を限定した請求範囲の記載を認める。

 2. 蛋白質
  イ.発明の詳細な説明に変異体についての例示がある場合には、当該蛋白質の機
      能と変異体の範囲を限定した請求範囲の記載を認める。
  ロ.序列で特定することのできない場合、蛋白質の機能、理化学的性質、起源及
      び製法を全べて記載して特定する場合のみこれを認める。

 3. モノクローナル抗体
 抗原が特許の要件を満たす場合、その抗原で特定したモノクロナール抗体を認め
 る。

 4.アンチセンス(antisense)に対する審査基準の定立
 特許請求の範囲及び明細書の記載要件を追加しました。

 5.新規性の判断事例を追加